大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)3660号 判決 1954年2月02日

本籍並びに住居

鹿児島市柳町六〇番地(現在鹿児島刑務所在所)

黒糖加工手伝

相良哲男

大正一四年一月二一日生

右の者に対する殺人被告事件について昭和二八年七月八日福岡高等裁判所宮崎支部の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意(補充上告趣意書を含む)について。

所論(一)は、憲法三一条違反を主張するけれども、その実質は法令違反及び事実誤認に帰するのであり、また(二)は法令違反、事実誤認又は量刑不当の主張を出でず、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして原判決の是認する第一審判決挙示の各証拠を合せ考えれば、判示犯罪事実を優に認定できるから、原判決になんら所論のような違法はなく、その他所論によつて記録を調べてみても法令違反も量刑不当も認められない。補充上告趣意は、憲法一三条三一条三七条三八条違反を主張するが、結局第一、二審判決の事実誤認又は法令違反を主張するに過ぎないから、適法な上告理由と認められない(なお被告人の補充上告趣意書〔昭和二八年一〇月二一日受付〕及び上告趣意書〔昭和二八年一〇月三一日受付〕は期間を著しく経過した後に提出されたものであるから判断を与えない)。

弁護人阪本忠助の上告趣意第一点について。

所論は、原判決の是認した第一審判決が弁護人の正当防衛の主張を排斥する論拠とした判例を引用して、却つて原判決は右判例に違反すると主張するのである。しかし第一審判決の認定した事実によれば、被告人は石井にその名を呼ばれたので救いを求められたものと考え、当該場所に行つたのであるが、その後常に攻勢に出で、被害者安達に対し「……その喧嘩は俺が買つた」といい、「同人をその場に引き倒した後場所をかえあらためて勝負をつけようと考え、場合によつてはそれを用いて切りつけんがため前記藤乃屋から刺身包丁(証第一号)を持ち出し秘匿の上同人とともに……に至り同所で再び格斗を開始し」たというのであるから、被告人が右包丁で被害者を殺害するに至つた機縁が、「同人が兇器を取り出そうとする気配を感じたので」あつたとしても、原判決の維持する第一審判決が全体の経過をもつて斗争者双方が相互に攻撃防禦をくり返す連続的行為の一団と認定したのはまことに相当であつて、なんら所論引用の判例に反するところはない。

同第二点について。

所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(そして本件について正当防衛の観念を容れる余地のないことは第一点について説明したとおりである)。

その他記録を調べても同四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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